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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)797号 判決

原告

八木紀子

ほか五名

被告

京都市

主文

一  被告は、原告八木紀子に対し金一七一万六七二七円、原告八木誠二郎、同八木朋子及び八木康行に対し各金一四九万八九〇八円及び同各金員につき昭和五九年五月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告八木紀子、同八木誠二郎、同八木朋子及び同八木康行のその余の各請求並びに原告八木春一及び同八木千代の各請求を棄却する。

三  訴訟費用のうち原告八木春一及び同八木千代と被告との間に生じた分は右原告らの負担とし、その余の同費用はこれを七分し、その六を右以外の原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告ら

1  被告は原告八木紀子に対し金一一七〇万七三六〇円、原告八木誠二郎、同八木朋子、同八木康行に対しそれぞれ金五九三万五七八六円、原告八木春一、同八木千代に対しそれぞれ金一五〇万、及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  一項につき仮執行宣言

二 被告

1 原告らの各請求を棄却する。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

原告八木紀子は訴外亡八木彰一郎(以下、「亡彰一郎」という。)の配偶者、原告八木誠二郎、同八木朋子、同八木康行は亡彰一郎の子、原告八木春一、同八木千代は亡彰一郎の父母である。

2  本件交通事故の発生

訴外阪神トラツク株式会社(京都市右京区西院東中水町八・九番地所在。代表者代表取締役井上仁郎。以下、「阪神トラツク」という。)に自動車運転手として雇われていた訴外平本憲二(以下、「平本」という。)は、昭和五八年九月二三日午前一一時四五分頃、阪神トラツクの業務の執行として、三トントラツク(京88あ637号。以下、「加害車」という。)を運転して、京都市伏見区中島河原田町四番地の七先路上(以下、「本件車道」ともいう。)を北進中、同一方向を向いて停まつていた駐車車両を避けるため、本件車道の右側(東側)に寄つて進行したところ、折柄、本件車道東側の歩道(以下、「本件歩道」ともいう。)の雑草の蔭から車道側端に出てきた亡彰一郎に加害車右前部を衝突させ、同人を死亡させた。

3  被告の責任

本件交通事故の発生については、平本の過失に帰せられるところもあるが、その原因の一部は、以下に述べるように、被告の本件歩道における設置管理の瑕疵に帰せられるべきものであるから、被告には国家賠償法二条一項所定の責任がある。

(一) 被告の本件歩道の設置管理責任

本件車道ならびに本件歩道はともに京都市道であつて、被告において設置管理をする義務がある。

(二) 本件歩道の設置管理の瑕疵

道路の設置管理については、歩行者の道路歩行の安全を確保するため、歩道についてもその設置管理に万全を期さなければならないところ、本件歩道は次に述べるように人の通行する道路として通常行うべき管理がなされていなかつたものであるから、その意味で瑕疵があつたというべきである。

(1) 本件歩道は幅員約一・七メートルであるが、右歩道には約一五〇メートルにもわたつてセイタカアワダチソウ等の雑草が繁茂し、徳に本件事故のあつた箇所は人の背丈を優に越すほどの高さの雑草が歩道一杯に生い茂り、車道にまではみ出していて、到底人の通れない状況であつた。

(2) 本件歩道は右のように、通行するためには一旦車道に出なければならない状況であつたため、付近住民は本件のような事故の発生を絶えず危惧しており、苦情も相次いでいたため、自治町内会長が住民を代表して再三にわたり早急に雑草を除去するよう市当局に申入れていた経緯があるにもかかわらず、被告はこれを無視し放置していた。

(3) 被告は本件事故直後になつて、あわてて本件事故現場付近の雑草を除去した。

(三) 本件歩道の設置管理の瑕疵と本件事故との因果関係

(1) 事故現場の本件車道は幅員約六・六メートルしかなく、しかも追い越し禁止等の規制は一切なされていなかつたのであるから、駐車車両を追い越すために、加害車が車道右側の本件衝突地点まで車を寄せて進行したのは通常の行動である。

(2) 本件歩道は、前記(二)(1)で述べたように歩道上に生い茂つた雑草が車道にまではみ出していて到底人の通れる状況でなかつたし、人車の視界を著しく狭めていたため、亡彰一郎はやむをえず本件車道の側端に出て、衝突地点を歩き出そうとした矢先、事故に逢つたものである。

(3) もし、右歩道の管理者である被告が、本件歩道について管理上の注意義務をつくして雑草を刈り取つてさえいたならば、亡彰一郎は当然歩道を歩いていたであろうから、本件事故はそもそも発生しなかつたはずである。したがつて、本件事故の発生原因は、被告の本件歩道についての設置管理の瑕疵にもとづくものというべきである。

4  原告らの損害

(一) 亡彰一郎の逸失利益

亡彰一郎は死亡当時五一歳の健康な男子で、数十年の伝統と信用を保持するタオル卸業「八木春」株式会社(大阪市東区南本町四丁目五六番地所在)の現役社長であり、京都の名所旧跡をこよなく愛し、本件事故当日(祭日)も戊辰戦役の跡を探索すべく伏見の城南宮に近い本件事故現場付近を散策中であつたが、もし、この事故によつて死亡しなければ六七歳までなお一六年間も就労可能であつた。そして死亡当時右会社に勤務し、年額九九八万三〇〇〇円の給料を受けていたから、右期間を通じて控除すべき生活費を三割とし、中間利益の控除につきホフマン式年別複式計算法を用いて死亡時における逸失利益の現価を算定すれば、金八〇六一万四七二一円となる。

(9,983,000×7/10×11.536=80,614,721)

原告八木紀子は亡彰一郎の配偶者として、この二分の一の金四〇三〇万七三六〇円、原告八木誠二郎、同八木朋子、同八木康行は亡彰一郎の子として、この六分の一づつの各金一三四三万五七八六円宛相続した。

(二) 慰謝料

亡彰一郎は一家の支柱であり、原告らは、まさに青天の霹靂ともいうべき不慮の事故によつて、絶望と悲嘆のどん底に突き落され、しかも原告八木誠二労、同八木朋子、同八木康行はいずれも修学中の身の上で未だ社会人となつていないため、亡彰一郎の死亡により原告らが配偶者、子、父母として受けた精神的苦痛はまことに甚大であり、これを慰謝すべき金額としては原告ら各自三〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費用

原告らは昭和五八年九月二四日に亡彰一郎の葬儀を行い、その諸経費として控え目にみても金九〇万円を支出し、これを原告八木紀子が負担した。

(四) 弁護士費用

本件事故後、被告は、自らの責任の所在、損害賠償につき責任を回避して誠意ある態度を示さなかつたので、原告らはやむなく本訴の提起とその追行を本件訴訟代理人に委任し、同代理人に対し右費用として金三〇〇万円の支払を約した。原告らは右金員の六分の一の各金五〇万円宛支払義務を負担している。

5  損益相殺

原告らは、昭和五八年一二月二六日、本件事故に関して阪神トラツクより示談金として金七〇〇〇万円を受領し、そのうち、原告八木紀子は金三三〇〇万円を、原告八木誠二郎、同八木朋子、同八木康行はそれぞれ金一一〇〇万円を、さらに原告八木春一、同八木千代はそれぞれ金二〇〇万円を、前項の損害に充当した。

6  結論

よつて、被告に対し、原告八木紀子は第4項(一)ないし(四)の損害金合計四四七〇万七三六〇円から第5項の示談金三、三〇〇万円を控除した金一一七〇万七三六〇円、原告八木誠二郎、同八木朋子、同八木康行はそれぞれ第4項(一)、(二)、(四)の損害金合計一六九三万五七八六円から第5項の示談金一一〇〇万円をそれぞれ控除した各金五九三万五七八六円、さらに原告八木春一、同八木千代はそれぞれ第4項(二)、(四)の損害金合計三五〇万円から第4項の示談金二〇〇万円をそれぞれ控除した各金一五〇万円、およびこれらに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  答弁

1  請求の原因1の事実は不知。

2  請求の原因2の事実のうち、本件車道において加害運転手平本、被害者亡彰一郎の間で交通事故が発生し、右事故により亡彰一郎が死亡したことは認めるが、その余の事故状況については不知。

3(一)  請求の原因3のうち、頭書記載の主張は争う。

(二)  請求の原因3の(一)、(二)の事実のうち、本件車道及び歩道が京都市道であり、被告において設置管理する義務があること、本件歩道上にセイタカアワダチソウ等の雑草が生えていたこと、本件事故直後、本件事故現場付近の雑草を除去したことは認め、その余は否認する。

本件歩道は、本件事故現場付近においては、幅員約二・三メートル近くあるが、右歩道上に右雑草の生えていたことは前述のとおり認めるが、そのために右歩道上を通行できなかつたほど繁茂していたということはなく、もとより歩道上を通行することは、可能であつた。

特に、亡彰一郎が通りかかつたのは正午頃で、雨も降つてなく、路面も乾燥していたのであるから、雑草の茂みの状況も十分に確認でき、雑草が衣服等に触れて衣服が濡れる等のおそれもなかつた。従つて、同人としては歩道を避け、敢えて危険な車道上を通行する必要は、通常全く考えられないし、そのようにしなければならない状況ではなかつた。

なお、昭和五八年八月頃、付近住民と思われる人から電話で右雑草除去の申入を被告伏見土木事務所が受け、右事務所では現場調査し、作業着手しようとした矢先、本件事故の発生となつた。本件事故後の九月二五日右雑草は除去された。

仮に、雑草が茂つていたため、一カ月ばかり前から付近の住民から刈り取りの要請が有つたとしても、本件歩道が、元来人通りの少ないところであり、管理上なかなか手が回らなかつたため、手配はしたが、本件事故日までに間に合わず、刈り取り予定の矢先に本件事故が発生したというのであり、放置していたわけではない。

以上述べた事情を総合すれば、本件道路は、通常必要とされる道路としての安全性を何等欠くものではなく、その管理には何等の瑕疵もなかつた。

(三)  請求の原因3(三)のうち、本件事故現場付近の本件車道に追越し禁止の規制がなかつたことは認め、その余は否認もしくは争う。本件車道は、幅員約六・五メートルであり、最高速度制限時速四〇キロメートル、駐車禁止、路線バスを除く大型車通行禁止等の規制があつた。

本件事故は、加害運転手平本の前記制限速度を越えたスピードの出しすぎと、前方不注意等の過失並びに危険な車道上を十分に車両等の動静に注意することなく通行した被害者亡彰一郎の行動とによつて、専ら生じたものである。以下に、その根拠を挙げる。

(1) 本件事故現場付近の雑草の繁茂状況を考慮した有効幅員は、五メートル五〇センチであり、亡彰一郎と衝突した平本運転の加害車は、車両幅二メートル一四センチであるから、十分に車道東端から余裕をもつて通行しえた。ところが、加害車は、駐車中の車両を追い越した後も、本来左側通行すべきをそのまま漫然と車道進行方向右端から一メートル二〇センチないし九〇センチ部分(車道東側部分)を通行した。

(2) 他方、本件歩道が、雑草の繁茂のため通行不能もしくは困難であつたとし、車道上を通行する必要性があつたとしても、右車道と歩道の間の幅五〇センチメートルの路肩部分を通行することが十分可能であつたにもかかわらず、亡彰一郎が該路肩部分を越えて車道東端から九〇センチメートル近くも車道側を歩いていた。

(3) かくして、平本が制限時速四〇キロメートルを二〇キロメートル以上も越えた時速約六四キロメートルで、前方注視も十分しないまま、漫然と加害車を運転した過失と、亡彰一郎が安全を確認しないまま、漫然と車道へ深く入り込んで歩行した過失により、本件事故が発生した次第である。

以上の次第であるから、たとえ道路管理の瑕疵があつたとしても、道路管理者たる被告にとつて、本件事故は通常予測されうる事故の範囲を超えたものであり、この見地によれば、本件道路管理の瑕疵と本件事故との間には相当因果関係がない。

4  請求の原因4の事実のうち、原告らが本件訴訟代理人に委任したことは認め、その余は不知。

5  請求の原因5の事実のうち、金七〇〇〇万円の受領の事実は認め、その余は不知。

6  請求原因6の主張は争う。

三  過失相殺の抗弁

仮に、本件事故によつて生じた損害につき、被告に責任があるとしても、右に指摘したように亡彰一郎にも多くの注意義務の懈怠があり、その過失割合は道路管理者たる被告との間では、四割を下るものではなく、原告らが主張する本件事故による損害金合計金一〇二五万四七一八円のうち、既に右損害金の六割を越える金七〇〇〇万円は阪神トラツクから受領済であるから、右金額以上に被告において別途支払う必要はない。

四  右抗弁に対する答弁

亡彰一郎としては、雑草の壁を前にし、現場確認のため見通しのよい本件車道に出ようとして、本件事故に遭つたもので、何らの落度もない。仮に、同人に落度があつたとしても、軽微であり、損害算定の減額要素として斟酌すべきでない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告らの地位

原告八木紀子本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、請求原因1の亡彰一郎と原告らの各身分関係を認めることができる。

二  本件交通事故の発生

本件車道において、加害運転手平本と亡彰一郎との間に交通事故が発生し、同事故により亡彰一郎が死亡したことは、当事者間に争がなく、これらの事実に、成立に争のない甲第一六号証、同乙第一、第二号証、同第四、第五号証、原告ら主張の写真であることに争のない検甲第一ないし第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第一五号証、証人平本憲二の証言及び原告八木紀子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  事故現場は、南北にほぼ一直線に通ずる市道旧千本通り路上であつて、本件車道とその東側に沿い約二〇センチメートル嵩上げされた幅員二・二メートルの本件歩道とよりなり、いずれもアスフアルト舗装された平担な通りで、人・車とも交通量は閑散であつた。もつとも、同通りの西側沿いで、事故現場のやや南方は雑草や樹木が繁茂した土地と接しており、本件車道の幅員も事故現場付近で六・六メートル、そのやや南方は不整形で五・五ないし五・三メートルと狭く、通行区分の道路標示もなかつた。そして、事故現場付近から南の歩道には、車道面から測つて高さ約二メートルにも達する雑草が、路肩や縁石付近に繁茂し、その一部は車道へ約六〇センチメートルもはみ出し、歩道はもとより、歩道から車道南方への視界を遮つていた。

2  平本は、昭和五八年九月二三日午前一一時四五分頃、加害車を運転して右通りを北進していたのであるが、前方左側に駐車々両を認めて進路を右側に移し、時速約六四キロメートル(制限時速四〇キロメートル)で進行していたところ、約四・四メートル右前方の草叢から亡彰一郎(五一歳)が突然車道に出て来るのを発見し、ハンドルを左転把すると共に急制動の措置を講じたものの間に合わず、加害車右前部付近を同人に衝突させて跳ね飛ばし、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、約一時間後に収容先の病院において死亡させた。

以上の事実を認めることができ、この認定を動かすに足る証拠はない。

なお、亡彰一郎の行動であるが、前掲甲第一五号証、同検甲第一ないし第三号証、同乙第一号証、同第五号証、成立につき争のない甲第二五号証に、原告八木紀子本人尋問の結果によると、亡彰一郎は、当日戊辰戦役の跡を訪ねて京都に来、事故現場付近にいたこと、同現場付近の状況からすると、同人は、歩道上に繁茂する雑草を避けるため、車道上に出て本件事故に遭遇したことが認められ、この認定を動かすに足る証拠はない。

三  被告の責任

本件事故のあつた道路が被告の設置管理にかかる市道であることは、当事者間に争がない。そして、右認定のように事故現場付近から南の歩道には、人の背丈以上もある雑草が車道にはみ出すまでに繁茂していたところ、本件事故の翌日右雑草が繁茂した状況を撮影した写真であることに争のない検乙第一号証によると、繁茂した草叢と草叢との間に、人が通つて通れなくはない空間があること、しかし、そこを通過するには、通常多少とも雑草を払い除けるなど、用心しながら進む必要があることが認められる。

そうだとすれば、右歩道上の雑草の繁茂は、それが背丈以上もあるだけに、歩行者が行手を阻むものと受け留めて当然であつて、通行上の障害と解するのが相当であり、前掲乙第一号証の現場の模様に関する観察及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第七号証から窺える付近住民の雑草除去の予ねてからの陳情は、右の判断を裏付けるに十分というべきである。加えて、如何に利用者が少いとはいえ、人車の通行の用に供する以上、雑草の繁茂を通行者の視界を遮るまでに放置していたのであるから、道路としての基本的安全性を欠如していたというほかない。もしも、本件歩道上にかかる雑草さえ無ければ、亡彰一郎も本件車道上に出ることはなかつたであろうし、仮にその雑草が視界を遮るほどのものでなかつたとすれば、加害車を運転していた平本及び亡彰一郎は、格別の努力をしなくとも、互に注意を払うことが可能であつて、本件事故の発生を未然に回避し得たというべきであり、このようにみて来ると、本件道路は、通常有すべき安全性を欠如していたものと解すべく、被告は、国家賠償法二条一項に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があるといわなければならない。

四  損害

1  亡彰一郎の逸失利益

亡彰一郎は、前認定のように死亡当時五一歳であつたところ、成立に争のない甲第六号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第五号証の一、二に、原告八木紀子本人尋問の結果によると、亡彰一郎は、当時少くとも年額九九八万三〇〇〇円の収入があり、今後一六年間は同額の収入を得ることができたということができる。

従つて、右収入につき控除すべき生活費を三〇パーセントとし、一六年間の新ホフマン係数一一・五三六三をもちいて逸失利益の現価を算出すると、八〇六一万六八一八円となる。

そして、弁論の全趣旨によると、原告八木紀子が配偶者として二分の一の四〇三〇万八四〇九円、原告八木誠二郎、同八木朋子及び同八木康行が子として六分の一ずつの各一三四三万六一三六円のそれぞれ損害賠償請求権を相続したことが認められる。

2  原告らの慰藉料

亡彰一郎が一家の支柱であつたところ、不慮の事故によつて死亡したのであるから、原告らが受けた精神的苦痛が甚大であつたことは推測するに難くなく、これを慰藉するには原告ら各人につき二〇〇万円をもつて相当と認める。

3  葬儀費用

原告八木紀子本人尋問の結果及び同結果により真正に成立したと認める甲第一〇号証の一ないし六、同第一三号証並びに弁論の全趣旨によると、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は九〇万円と認めるべきであり、これを原告八木紀子が負担した事実を認めることができる。

4  過失相殺

被告において過失相殺の主張をするから検討するに、さきに認定した事故の態様に鑑みると、亡彰一郎としては、雑草により車道への視界を遮げられていただけに、より慎重に車両の動向に留意したうえ、車道に歩を進めるべきであつた。もつとも、加害車が本来の進路から大きく右側に出て進行していたことも無視できないというべきであり、これらの点を考慮すると、二〇パーセントの割合による過失相殺をするのが相当というべきである。

すると、損害額は、原告八木紀子につき三四五六万六七二七円、原告八木誠二郎、同八木朋子及び同八木康行につき各一二三四万八九〇八円、原告八木春一及び八木千代につき各一六〇万円となる。

5  弁済

原告らが平本の使用者阪神トラツクより示談金名下に七〇〇〇万円を受領したことは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、そのうち三三〇〇万円を原告八木紀子、各一一〇〇万円を原告八木誠五郎、同八木朋子及び同八木康行、各二〇〇万円を原告八木春一及び同八木千代の各損害として取得したことが認められる。

従つて、残損害額は、原告八木紀子につき一五六万六七二七円、原告八木誠二郎、同八木朋子及び同八木康行につき各一三四万万八九〇八円となり、原告八木春一及び同八木千代については残損害がないことに帰する。

6  弁護士費用

原告八木紀子、同八木誠二郎、同八木朋子及び同八木康行が、本訴の提起追行を弁護士に委任していることは明らかであるところ、事件処理の難易度、勝訴額などに鑑み、各自一五万円の分担により六〇万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

五  結論

以上の次第であるから、被告は原告八木紀子に対し一七一万六七二七円、原告八木誠二郎、同八木朋子及び同八木康行に対し各一四九万八九〇八円と、それぞれの金員につき履行期到来後である本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五九年五月五日から完済に至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負担しているというべく、右原告らの各請求はこの限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却する。

また、原告八木春一及び同八木千代の各請求は理由がないことに帰するから、これを棄却する。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行宣言につき同法一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田眞)

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